本研究は、18世紀から19世紀にかけての科学の発展を、イギリスロマン主義文学の形成に原理的な変革への志向を与えた大きな動因としてとらえ、イギリスロマン派詩人、作家の作品に特徴的な表現原理を追及するものである。本年度は研究計画の初年度であり、主に次の三つの側面から、当該テーマの基礎的研究を行った。(1)コールリッジの「方法論」の研究とその歴史的文脈の検討(2)1790年代から1820年代までの論理学、論理形式の記述の試みと諸科学との関連の検討 (3)ロマン主義第一世代の詩人の作品における科学的知見、および科学思想との関連についての検討。(1)と(2)は、コールリッジの「方法論」を、文芸活動と科学研究とを統一の相の下にとらえる原理的思考と考え、その歴史的文脈として、科学の発展に触発されて展開した、数学的形式の論理学への援用を見ようとするものてある。具体的には、コールリッジの「方法論」、その発展と考えられる「論理学」(Logic)および1820年代以降のノートブックの内容を検討し、アリストテレス以後のヨーロッパにおける論理学の発展とともに考察した。カントの影響を強く受けたコールリッジは、伝統的な論理学の踏襲だけでなく、自然の原理の表現としての数学形式を論理学に応用する可能性をとらえていた。コールリッシの場合、数学の理解は思想的なものに止まっているが、コールリッジの「方法論」が方法の原理を追求するものである限り、そこには数学形式を応用する契機があったと考えられる。この点でさらに研究されるべきは、生きる原理としての数への考察を展開したピタゴラス学派についてのコールリッジの思考であり、それが科学上の知見への理解にとのように関わっているかについては今後の検討の課題である。(以上の研究内容は、研究会で口頭発表を行った。)(3)については、主に文献収集、資料調査を行った。まず、ロンドンの王立研究所でH.デイビーの直筆書簡を調査し、大英図書館で18世紀の科学雑誌を閲覧、調査した。また、18世紀から19世紀にかけての天文、地質、化学、植物などの学問分野の形成と研究の実際を知るために、文化研究領域の書籍、辞書、などを整備した。本年度の研究成果は次年度以降に発表する予定である。
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