平成20年度の研究は、主に次の二つの点から行った。まず、(1)前年度から引き続き、イギリスロマン主義文学における詩と科学の融合の理念を、アイルランドの数学者W.R.ハミルトンを通して検討した。ハミルトンとワーズワスとの交流から、ワーズワスの数学観やハミルトンの詩的ヴィジョンにおける数学的要素などが明らかになった。同時に、コールリッジとハミルトンの交流、ハミルトンにおけるコールリッジからの哲学的影響について考察した。これらの考察の成果の一部は、国際コールリッジ学会(International Coleridge Summer Conference2008)で発表し、その内容はColeridge Bulletinに掲載された。また、ハミルトンの四元数(quaternions)と関連する詩的要素について、計測自動制御学会システム・情報部門講演会2008で発表した。(2)ロマン主義第二世代ではキーツを取り上げ、コールリッジからの思想的影響を詳細に検討した他、キーツの医学ノートからみる当時の生命論に関する議論との関連、キーツの作品「レイミア」に見られるロマン派医学、などについて検討した。これらの考察から、キーツには独特の物質観に基づく生命への理解があると考えられること、それらは彼の詩作品に何らかの形で影響していることが明らかになった。また、キーツの手紙に残されたコールリッジの談話のトピックは、夢や意識の働きに関する哲学的、生理学的、心療医学的関心によって相互関連していること、それらの関心が、キーツがコールリッジと会った直後に書かれた「ナイティンゲールに寄せるオード」「レイミア」に表現されている点ついて分析した。(2)の内容は平成21年度の国際学会(BARS)で研究発表し、論文にまとめてしかるべき学術誌に掲載する予定である。本研究課題による研究成果の多くは、“Coleridge and the Age of Science:The Romantic Pursuit of Ideal Visions through Scientific Practice"と題した論文にまとめ、広島大学に学位請求論文として提出した。この論文はBook Parkにて平成21年度に公開予定である。
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