3年計画の初年度にあたるこの1年、研究課題に従い、基本文献の収集と時代区分に応じた文献の分析を行なった。その結果、19世紀後半より20世紀に至るアメリカ児童文学における子ども像と自然観は、ロマン主義思想の延長線上にあり、子どもは可能性を秘めた無垢な存在、自然は心安らぐ空間という意識が濃厚であったことが確認できた。オルコットの『若草物語』、クーリッジの『すてきなケティ』、ボームの『オズの魔法使い』、ウィギンの『少女レベッカ』等の主要作品がそのことをよく示している。 その一方、環境への危機意識の芽ばえが、19世紀末刊行の『オズの魔法使い』から読み取ることが可能であった。自然と人間の共存の可能性への提言がすでに示されているこの作品は、20世紀における環境への危機意識の高まりの先駆的な作品として再評価に値すると言える。植物の案山子、動物のライオン、鉱物の木こり、そして人間のドロシーとの連帯には、現代の課題が暗示されていると言えよう。 それ以降、20世紀アメリカ児童文学は、環境への危機意識を表明する注目すべき作品を輩出してきた。その背景には、アメリカの急速な都市化と環境破壊の進行があったと考えられる。絵本のジャンルでは、ブラックの『アンガスとあひる』、バートンの『ちいさいおうち』等を始めとする多数の作品、児童書のジャンルでは、ワイルダーの『大きな森の小さな家』、ローソンの『ウサギの丘』等を始めとする多くの作品が書き継がれてきた。 結論として言えることは、子ども像に大きな変化は生じたのは第2次大戦後のことになるが、環境意識の変化はほぼ20世紀初頭に見られ、現代に近づくにつれその深刻さの度合いを深めてきたことである。
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