研究二年目の本年度は、1940年代から60年初期に至るアメリカ児童文学における子ども像と環境への意識の高まりについて、日本の児童文学との比較を交えて調査研究した。研究への助言と協力を得たのは、所属する「文学・環境学会」の会員を初めとして、財団・日本環境フォーラムの理事長である岡島成行氏、フリーのネイチャーライターの加藤則芳氏らである。 1940-50年代のアメリカ児童文学においては、明らかに環境破壊への危機意識を持つ作家・作品が増加したことが第一に指摘しうるだろう。日本でもよく読まれているバートンの絵本『ちいさいおうち』(1942)、エッツの『わたしとあそんで』(1955)、児童書ではR.ローソンの『ウサギの丘』(1944)、E.B.ホワイトの『シャーロットのおくりもの』(1952)等は、自然環境の危機に対する自覚がすでに明確に認められるばかりか、現代社会が学ぶべき自然環境への新たな姿勢が読み取れる。新たな姿勢とは何かと言えば、それは自然を人間の思いのままに利用し、支配する「人間中心主義」の考えではなく、いわば自然の声に耳を澄ます姿勢、「自然との共生」の必要性とその手立てを喚起・提唱する姿勢であると要約することが可能である。このような考え方と姿勢は、アメリカ社会が環境破壊への懸念を抱くようになった1960年代に先駆ける画期的なものと言えるだろう。その詳細については、青山学院大学英米文学科発行の学術雑誌「英文学思潮」において論じた。また、2007年秋に刊行予定の『英米児童文学の宝箱』および『英米絵本の宝箱』においてもそのことを指摘した。
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