本研究は、19世紀後半から20世紀にかけて、アメリカの児童文学に見られる子ども像が大きく変化したという歴史的事実を明らかにした。子どもは小さな大人から可能性を秘めた存在へと変化し、自然観も破壊から保護へと変容した。自然環境の破壊が進んだ結果、保護意識が高まるが、児童文学においても人間と自然環境との共存を模索する作品が確実に増えてきた。このような変化が、20世紀アメリカ児童文学の変容の核心にある。大人が破壊してきた自然環境を、子どもが修復しようとする。20世紀の子どもたちは、世界を変革する先頭に立つのである。その先例が、小さな少女が大人たちのリーダーとなるボームの『オズの魔法使い』(1900)である。異なる者たちと動物との間に、連帯が深まる様を描くこのファンタジー作品には、20世紀が必要とする人間と人間、人間と自然環境との望ましい関係が提示されていると評価しうる。 そのような考えを受け継ぐ作品が、現代に近づくにつれ増えてきた。V.L.バートン、M.H.エッツ、R.マックロスキーらアメリカを代表する絵本作家たちは、自然から学ぶ子ども像を繰り返し表現した。児童向け物語ジャンルにおいても同じことが言える。その先駆的作家が、20世紀半ばに活躍したR.ローソンであり、代表作の『ウサギの丘』(1944)である。戦時下に発表されたこの物語は、動物と人間という異なる種類の者たちに必要なことは、争いではなく理解であるとして、和解の必要性を主張する。1960年代に登場したS.オデルはそのような考えを推し進めた結果、動物と人間は異なる他者であるとの前提で、相互の理解を主張した。オデルの立場は、今や児童文学界の共通認識となっているのである。
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