従来の日系文学研究は、第二次大戦中の強制収容に研究の焦点を集中させてきた結果、日系作家をともすれば、アメリカやカナダにおける人種主義の犠牲者としてのみ位置づけることに終始し、日系作家の多様性が見逃されてきた。そこで、本研究においては、収容所から解放された日系人がアメリカやカナダの主流社会に復帰していった戦後の再定住期における日系作家の創作活動を検討することを主な目標とすることで、日系文学の変容および多様性について明らかにすることにした。 本報告書は、このような研究の成果の一部を纏めたものである。日系作家の中でも戦後、特に、注目すべき活動をおこなったのは、ヒサエ・ヤマモトである。ヤマモトは、1945年から3年間、黒人系の新聞記者となり、その後、1953年から2年間は、カトリック・ワーカーのコミュニティで生活をしている。公民権運動にも参加したヤマモトは、やがて平和主義に関心を寄せ、平和主義者としての活動に熱心に取り組むようになった。戦後の二世が同化志向を強化させた中で、他のマイノリティとの関係に関心を持ち、日系社会の外に目を向けたヤマモトに日系作家としての異質性を認めることが出来る。本報告書では、この二つの活動期に書かれたヤマモトのコラムやエッセイ、およびテキストの検討を通して、戦後のヤマモトがどのように日系二世としての主体意識を構築したか、その過程を探り、日系作家としてのヤマモトの出発点にあったものを明らかにした。
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