本研究の成果である《『百科全書』研究の現在-回顧と展望-》に、2005年度の研究の概容はほぼ記述されている。以下に要約するような達成となる。まず、『百科全書』研究の要である、パリ版原典資料の希少性に起因する困難が挙げられる。とりわけ日本でその状況は著しい。次に先行基礎研究を確認し、それを踏まえた新しい展開として、昨今は『百科全書』の先行資料、とりわけ1:英国の事典、2:「トレヴー辞典」、3:「第一趣意書」などが熱い注目を浴びている現況がある。さらに『百科全書』とその周辺資料を編年体で追跡記述する汎ヨーロッパ規模、さらには地球規模の普及に関する研究が緒についている事情も説明する。一方、ここ10年、『百科全書』の電子テクストも出版されたが、その短所・長所の見極めが肝要であることが重要である。 新しい研究動向を踏まえた本研究の展開は、まず1)分類総論、2)記憶術とBacon、3)パリ版『百科全書』の先行類書における分類指示(ハリス、ダイチ、チェンバーズ)が取り上げられ、ついで第一趣意書(1745年)をめぐる考察が、1:『サイクロピーディア』仏訳の底本問題、2:『サイクロピーディア』イタリア語訳、3:仏訳者の同定と契約破棄の問題、:仏訳文の検討、5:最初期の意図復原といったテーマで、順次検討された。さらに、来年度への橋渡しとして、趣意書末尾に訳載された4項目の来歴と変遷が、1:パリ版、2:イヴェルドン版、3:2種のイタリア版の順に、もっぱら「参照指示」の有無という観点から調査されている。
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