18世紀フランス最大の達成である『百科全書』は、突然変異のように出現した書物ではなく、モデルとなった英国の事典(ハリス、チェンバーズ)、同時代の辞書・事典、『百科全書』の後続版などの近縁資料と比較してみて、初めてその意義を露わにする。 1)記憶術の痕跡解明、および2)先行・周辺諸資料(フランスのトマ・コルネイユ、英国のハリス、チェンバーズ)や、同時代の類書(フュルチエール、ベール、トレヴー、モレリ)との関係性解明を手がけて、『百科全書』のとりわけ初期テクスト群を扱った昨年度に対し、今年度は『百科全書』の跡目を狙うかのような後続版((フランスの『体系的百科全書』、スイスのイヴェルドン版、イタリアのリヴォルノ版)について、パリ版が初期に提起していた問題がどのような形で変化・存続していったかを跡づけようとした。 基礎作業として、『百科全書』とその周辺資料を編年体で追跡記述する汎ヨーロッパ規模、さらには地球規模の普及に関する研究が緒についている事情を背景に、もっぱら中国と日本における状況(『和漢三才図会』と『厚生新編』およびその外国モデル)を説明、続いて各論に入り、昨年度に解明を試みたパリ版『百科全書』の第一「趣意書」末尾に訳載された4項目の来歴と変遷が、1:パリ版、2:イヴェルドン版、3:2種のイタリア版の順に、もっぱら「参照指示」の有無という観点から調査されている。
|