まず、当該研究が対象とする時代における南アフリカの歴史、また、ボーア戦争における言説およびそれに関する批評方法について、情報を収集した。また、海外のとも連絡を取り合い、事前調査を行った。後期には収集した資料を少しでも多く読むことを心がけた。 当初の予定ではOlive SchreinerのFrom Man to Man (1926)について最初に論文を完成させるつもりであったが、予定を変えて、Schreinerの中篇Trooper Peter Halket of Mashonaland (1987)について英語論文Africa Emptied : An English South African Representation of the "Other" Land in Olive Schreiner's Trooper Peter Halket of Mashonalandを完成させた。 この論文は作品を考察するだけでなく、その作品執筆に際し、Schreinerが自らその政治的意見を代弁すると主張するイギリス系南アフリカ人と彼女の意見の大きな隔たり、また、彼女がイギリス系南アフリカ人ではなく、英国人読者をその作品のその読者に選んだという特異性についても考察を行った。その結果、この「作家が帰属する(と主張する)「国家」「国民」と作家の「読者」の不一致」は、彼女の英国人読者からの隔たりをも生み出し、彼女の言説の周縁化を招いたという結論に達した。 実はこの「不一致」こそ、彼女の言説がその後の南アフリカにおいて反植民地的言説への道を拓く予言的な性格を持つ要因なのだが、その側面に関してはごく簡単にふれただけで考察が不十分であった。この不一致の問題へのさらなる研究は、Schreinerのボーア戦争に関する言説における大きな矛盾を解明するのに役立つものである。
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