前年に引き続き、当該研究が対象とする時代における南アフリカの歴史、また、ボーア戦争における言説およびそれに関する批評方法について、収集した資料を読み込んだ。また、海外とも連絡を取り合い、事前調査を行った。日本英文学会や日本アフリカ学会などに参加し、研究者と積極的に情報交換を行った。後期には収集した資料を少しでも多く読むことを心がけた。 英語青年の6月号で「アパルトヘイト終焉後の南アフリカ文学史」というタイトルで南アフリカ文学史を俯瞰し、その中でボーア戦争期の言説について理解を深め、12月号では「彷徨える帝国の娘」というタイトルで大英帝国の植民地である南部アフリカ出身の女性のidentityの問題を考察した。当初の予定ではolive SchreinerのFrom Man to Man (1926)について論文を完成させるつもりであったが、予定を変えて、David Livingstoneの探検記についての論文を完成させ、南アフリカを舞台にした帝国主義的言説を支える英国読者の存在について検証した。Livingstoneの探検記は、ボーア戦争における帝国主義的言説に直接つながるものであり、Olive Schreinerをはじめとする南アフリカ人作家が、南アフリカ人としての意識を持つ過程で重要な役割を果たしたテクストである。この研究をふまえ、南アフリカ人の作品の中で「南アフリカ人」に対する「侵略者」として描かれる英国人と、彼らが読者として設定するリベラルな英国人との関係をより深く理解することができた。その結果をふまえて、「国家」「国民」の意識について、Schreinerの他の作品やPlaatjeの作品等を考察する論文を執筆中である。
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