研究概要 |
当該研究の最終年度に当たる平成19年度においては,ジョン・ラスキンとウィリアム・モリスの環境保全をめぐる言説と実践について,それが現代のエコクリティシズム批評にいかなる影響を及ぼしているかについて,総括的な研究を行った。『広島英日文化』に寄稿した「毀誉褒貶の批評家」では,生前から評価が大きく分かれてきたラスキンについて,そのポリティカル・エコノミー論考が,20世紀後半の経済学者に再評価されるに至った経緯を述べて,彼の今日的可能性を示唆した。彼が実践したエコロジカルな共同体「セント・ジョージのギルド」と,その理念をつづった『フォルス・クラヴィゲラ』は,気候変動に産業化による汚染の影響を察知して警告を発した『19世紀の嵐雲』とともに,彼の多岐にわたる仕事の重要な側面として再評価することができる。モリスについても,一連の「レッサー・アーツ」論を検討して,その芸術論にエコロジーの視点が不可分のものとして備わっていたこと,そしてその思想的源流として,モリスが青年期に身を浸したロマン派詩人たちの思索があったことを確認した。「ロマン派のエコロジー」の水脈は社会主義者モリスの環境保全運動の理念と実践においてラディカルな局面を迎え,今日に至っている。なお,2007年3月にレイモンド・ウィリアムズのシンポジウムを組織したが,ウィリアムズの主著『文化と社会』において,ラスキンとモリスは重要な位置づけがなされている。そのウィリアムズの論文のひとつに「社会主義とエコロジー」があって,1980年代における社会主義活動とエコロジー運動の重なり合う部分について,重要な指摘がなされている。本研究者が主催しているウィリアムズ研究会において,今後ウィリアムズのラスキン,モリス評価について,さらに研究を進めてゆくことを今後の課題としたい。
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