次のテーマ群について資料収集と分析を遂行した。 1.「創作と知の乖離の克服をめぐるディスクルス」 1880年代から始まるGoethe-Philologieの組織的展開について、ドイツの主要大学におけるドイツ文学科の設立のプロセスと関連づけながら、Herman Grimm、Wilhelm Scherer、Erich Schmidtの言説やかれらの活動に関する資料を収集・分析した。このようなGoiethe-Philologieを中心にしたゲーテに関する「知」の集積に対して、ゲーテの創作の原点に戻ってゲーテを記述する試みがGeorge-Kreisを中心に生まれてくる。George-Kreisにおけるゲーテ評価については、Manfred Durzakの優れた研究があり、その成果を中心にまとめている。さらにこの問題域のなかでSimmelのゲーテ記述にも言及する。 2.「ドイツ的内面性の崩壊と古典」 ナチス政権が生まれようとする危機的状況のなかで、1932年ゲーテ没後百年祭がドイツの主要都市で開催された。トーマス・マンはこの年に一連の重要なゲーテ講演を行っており、それは市民社会の崩壊の危機のなかで、ゲーテをドイツ的内面性と近代市民社会の理想的融合として捉えることによって、ナチスに傾斜する時代に警鐘を鳴らすものであった。マンの言説の分析を遂行するとともに、1932年の前後の発表された多様なゲーテ記述についての資料収集を行った。 3.「ヨーロッパ文学の全体性回復をめぐるディスクルス」 戦後ドイツにおいて、ナショナリズムを越えたヨーロッパ文学の地平でゲーテを再評価する試みが始まる。特に、クルティウスの『ラテン中世とヨーロッパ文学』はその代表的な事例であり、このテーマに関連したAleida Assmannの優れた業績をもとに、資料収集と分析を遂行した。
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