本年度の研究実績としては、おもに19世紀後半から20世紀初期ロシアにおける、普通義務ギムナジアでの文学教育カリキュラムおよび教育制度改革にかんする調査をおこない、また教育関係者、文学研究者、政府、言論界における文学教育に関する言説についての資料収集、調査をおこなった。それによって、この時期にロシアの教育界、言論界で、文学の歴史的教育の必要性が次第に叫ばれるようになったこと、そしてその背景に、文学によるナショナリズムの涵養や文学そのものの一般への普及があることが裏付けられた。この結果は原稿用紙約120枚の論文としてまとめ、北海道大学スラブ研究センターの学術誌「スラヴ研究」に投稿し、すでに原稿審査をパスして掲載が決定している(2006年5月刊行予定)。 また、同じ時代の読書史、読者研究、出版・ジャーナリズム史にかんする資料収集を開始し、この時代に文学が実際にどう読まれていたのか、あるいは人々にどのような文学を読ませようとしていたのか、といった問題について検討をはじめた。とくに19世紀末に多数現れた民衆読書の研究にかんする資料を精力的に集め、ルバーキン、アルチェフスカヤ、プルガーヴィン、アン-スキイら、ナロードニキ運動以後の主要な読書研究に関する資料を入手し、労働者や農民の読書行動と、そうした民衆に古典文学を読ませるためのさまざまな研究について検討した。現在さらなる資料収集、読解と、その結果の整理を行っている。
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