本研究の特質は、ニューイングランドに波及したヨーロッパ文化が文学に及ぼした効果をルネサンス精神史の文脈の中で考察し、アメリカとヨーロッパをひとつに繋ぐ新たな視点-トランス・アトランティックな視点-を、19世紀ニューイングランドのホーソーン文学研究に定着させようと試みたことにある。前回の研究成果『ホーソーン・《緋文字》・タペストリー』(2004)を発展させ、ホーソーンのテクストに埋め込まれている、一見ピューリタンの土壌とは無関係に見えるヨーロッパ的な図像要素の意味を考察した。その結果(1)共編著『視覚のアメリカン・ルネサンス』(2006)を上梓。筆者がこれまで組織してきたシンポジウムをもとに、内容・陣容を新たにした。各執筆者は広義のアメリカン・ルネサンスの文学を、ルネサンスから20世紀までの絵画・建築・演劇・紋章などの視覚芸術との関連で論じている。オリジナルな研究として学会・ジャーナリズムで高い評価を受けている。筆者はホーソーンの短篇「痣」の「小さな赤い手」を、ルネサンスの紋章の文脈で読み解き、同時にこの作品を現代医療倫理への警鐘とみなした。また(2)共編著『図像のちからと言葉のちから-イギリス・ルネッサンスとアメリカ・ルネッサンス』(2007)を科研費研究成果公開促進費助成金により出版。筆者は「高貴な針仕事-ヘスター・プリンの系譜」と題して、『緋文字』のヘスターの刺繍・仕立術の意味を仮面劇の妖精の衣装の文脈から明らかにした。さらに(3)ホーソーン文学と接点を持つ単著『アメリカの理想都市』(2006)を仕上げた。国防総省ペンタゴンの正五角形を中心に、都市の<かたち>に込められた設計者の祈念をヨーロッパの伝統を背景に論じた。
|