研究課題
基盤研究(C)
ディアスポラ存続の条件として、構成員によるアイデンティティーの共有がある。しかし、他文化の中に暮らす人々にとって、アイデンティティーの再確認がなくては、「故国」、「民族」は意識から遠のく。それが同化のプロセスの一面であるが、マイノリティにとってその結束の拠所である「故国」、「民族」、「歴史」は彼らが不動のものとして捉えている規範通りのものではない。むしろ、これらのビジョンは常に変容し、それをもとに自らの立場を絶えず確認することで、彼らは継続的に結束を保っている。すなわち、永続的なデイアスポラとして存在するマイノリティには、その個々人の意識の有無は別として、結束の紐帯を再確認させ、たえず強化するする機構が必ず存在する。かかる共通認識の下、ディアスポラの維持・確認、あるいは創出の装置としての文学の諸相をとらえた。山下は、本来ディアスポラたちが形成した国家と目されているシンガポールにおいて、他国に住まうシンガポール人に対して、あらためてシンガポール系ディアスポラというまとまりを付与しようとする政府の政策と文学の位置づけを論じた。佐藤はドイツ語で書くチェコ人女流作家レンカ・レイネロヴァーに焦点を当て、主観性を伴う自伝や語りも、一つの時代を知る重要な資・史料であるとする立場から、ドイツ系チェコ人ディアスポラの激動の20世紀をたどろうとした。藤田は多文化の平和的共生が機能し、ドイツ語をあやつるユダヤ人の桃源郷とされてきたブコヴィナの像を、ユダヤ系女流詩人アウスレンダーの作品から抉り出し、ユダヤ人のアイデンティティ形成におけるその政治的意味を考察した。鈴木は、民族主義の高まりの中で、はじめて自らをマイノリティあるいはドイツ系ディスポラとして意識したトランシルヴァニアのドイツ系住民において、その結束の紐帯とて企図された詩集と、その国家社会主義的意図の意味について考察した。
すべて 2007 2006 2005 その他
すべて 雑誌論文 (13件) 図書 (1件)
東方 第22号
ページ: 128-143
エスニック・アイデンティティの研究-流転するスロヴァキアの民(川崎嘉元編)
ページ: 123-143
東北ドイツ文学研究 第50号(印刷中)
Bullitin of the Tohoku Society of German Study. No.50.(in print)
Yoshimoto KAWASAKI (ed.), A Study of Ethnic Identities -Changing Slovak People, Chuo University Press
Bullitin of the Tohoku Society of German Study No.50.(in print)
東欧の20世紀(高橋秀寿、西成彦編)
ページ: 126-156
中央ヨーロッパの可能性(大津留厚編)
ページ: 135-172
Toho No.22
The Possibilities of Central Europe.
Hidetoshi, TAKAHASHI & NISHI Masahiko (eds.), 20th Century in Eastern Europe, Jimbunshoin
Tokyodo Press
ページ: 410