本年度はまず、研究協力者D.ガルバータル教授(モンゴル国立大学)の専著『モンゴル文学の理論と歴史に関する重要な諸問題』(ウランバートル、2001年)などの1990年代の民主化以降に登場した文学研究の動向を批判的に論じたR.ナラントヤー博士(モンゴル科学アカデミー言語文学研究所)の評論「モンゴル近代文学研究を政治的思潮の迷妄から解放し理論的=方法論的刷新を行おう」(『新世紀』、第1号、ウランバートル大学モンゴル研究センター)に綿密な検討を加え、1990年代のポスト社会主義時代のモンゴル国における文学研究・文芸批評の特徴を探ることにつとめた。また、2003年にモンゴル作家同盟から出版された『モンゴル短編小説集(1990年以降)』というアンソロジーの中から、最近注目されている作家G.アヨールザナの「崇拝者」、S.ヒシグスレンの「首」「彼」などの短編小説を取り上げ、どのような点に時代的な新しさが見られるかを考察した。 中国内蒙古文聯の隔月刊機関誌『金鑰匙』(第6号〔通巻106号〕、2005年)に発表した「モンゴルの小説に描かれた日本人抑留者(モンゴル語)」は、日本人抑留者の青年ヤマダとモンゴル人の少女ボルマーの心の交流を描いたモンゴル国の作家R.ガンバトの長編小説「生きてゆかなければ」(1991年)に登場するヤマダの人間像が、従来のモンゴルの小説や映画に登場する残虐非道な悪役としてステレオタイプ化された日本人像とは異なり、きわめて人間的かつ肯定的に描かれている点に注目し、これは、1989年末から本格的に始まったモンゴルの民主化によって、社会主義時代の様々な束縛からモンゴルの作家たちが解放されつつある結果だと論じたものである。 本年度は国内での文献調査が中心であるが、ウランバートル在住の研究協力者D.ガルバータル教授からは最近の自著やモンゴル作家同盟機関誌『ツォグ』などの資料提供を受けた。
|