本研究は江戸期の詩経学の関係著作目録の作成を受けて、朱子学者、陽明学者、折衷学者など主要学派の重要な人物の詩経学のありようを考察することを通して、江戸期詩経学の様相を概観することを目的として進められている。 今年度ははじめに、このうち朱子学に属する学者、ことに官学たる林家の詩経学について考察した。特に詩経関係の著述の豊富な林鷲峰の詩経学を調査し報告した。林鷲峰の著述の多くは国立公文書館に蔵されるので実際に文献調査をした上で、特に重要と思われる『詩書序考』『詩訓異同』『詩経私考』を詳細に調査した。この中で林鷲峰は漢学に対しても一定の評価をし朱子の学説を読む際には必ず漢唐の訓詁学を併せ見なければならないことを強く主張しており、決して門戸の見に陥ってはいないこと、また明代の著作を豊富に引用し強く影響を受けていること、後代からは科挙の学と退けられる文章批評に類した明代の著作からの影響をたぶんに受けていることなどを指摘した。明代の陳元亮「鑑湖詩説」、黄文煥「詩経考」、陳組綬「副墨」、許天贈「詩経講意」などは特に多く引用されるが、こうした明学の影響は江戸期の詩経学の大きな特色のひとつといえるであろう。 またかつて作成した「江戸期における詩経関係書目」のうち最も著述の多い折衷学に属する大田錦城の詩経学を概観し、詩経の解釈に作者の原意のほかに用いる者の意がはたらいていることを主張した「神用・形迹説」を考察した。 さらに昨年作成した明治以降の詩経関係文献目録を増補修正し、併せて2005年分の論著目録を作成した。
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