平成17年度においては、トランスレーション・スタディーズの登場した1970年代を中心にして調査を進めた。翻訳研究は1976年開催のルーヴァン・コロキアムを契機に新たな局面に入ることになる。具体的には、A・ルフェーヴルとJ・ホームズの論考を中心に、翻訳研究が意味の等価の分析ではなく、翻訳されたテクストの文化的機能の分析に移ったことを検証した。新たに導入された視点は、翻訳言語のメタ言語性の問題である。翻訳言語は、その指示対象が起点言語とその意味内容であり、言語の言語という意味でメタ言語である。翻訳言語がメタ言語である以上、その元の意味は復元されないために、意味の等価が成立しない。この視点が新しい翻訳研究においてどのように展開されていったかという問題を中心に考察した。 近代における翻訳とは、西洋の文献を各国語に翻訳する作業であった。そこには宗主国と植民地の政治的な従属関係が反映することになる。両者の関係は政治的な関係だけでなく、文化的にも優位/劣位の関係にあるというポストコロニアリズム的なヘゲモニーが形成されていたと見るべきであり、この翻訳の権力作用の問題についても検証した。 以上の研究成果を踏まえたうえで平成17年度においては、研究のための一次資料の収集のために、平成17年7月26日より8月26日まで夏季休業期間を利用して、ロンドン大学及びウォリック大学(連合王国)において日本では入手不可能な文献の調査を実施し、貴重な資料を入手することができた。
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