本研究の今年度の重点は、基礎資料となる『剪淞詩文』の調査であった。故入谷仙介博士の生前の御努力と島根県立図書館の協力により、同雑誌全巻について調査を行うことができ、副本を作成した。しかし、本雑誌は通し頁がうたれておらず、連載の各編はそれぞれで独立した頁がつけられていた。恐らく連載完結後、線装を一旦とき、それぞれ一冊の本として編集を可能とするための処置であったと思われる。国立国会図書館など所蔵する剪淞吟社同人の詩文集を調査したところ、それらの殆どは『剪淞詩文』に連載されていたものが、分離され独立した一冊として再編集されたものであるらしいことがわかった。これらの調査のため、今年度は予想以上に出張費が必要となった。また、入谷博士の剪淞吟社調査資料は、島根県立図書館に寄贈された博士の膨大な蔵書及び資料のなかに入っており、未整理な状態であった。このため本研究の一環として博士の寄贈図書目録の作成を、資料調査と並行して行った。資料のなかには、同人たちの稿本も含まれており、それらの保存にも務めた。これらの調査によって、剪淞吟社に関する書誌的な調査は基本的に終了したと考えられ、現在、同吟社の活動実態の解明に重点を移しつつある。一つは、『剪淞詩文』は末期の一時期を除き目次がなく、どのような人物が詩文を投稿していたかの把握が困難である。この点について、調査を行う。またその作詩文水準の把握のため、横山耐雪など代表的な人物数人をしぼり、その作品の読解を行っている。
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