1、現地調査による新発見:中国広西壮族自治区桂林の鍾乳洞、通称"大岩"を中心にして洞内の調査を行い、『芦笛岩大岩壁書』(1974年)・「桂林芦笛岩・大岩壁書考釋」(1986年)等、先行の調査・研究では全く知られていなかった古代墨書跡を更に5点発見した。うち3点は弘治三年(1490)、崇禎一四年(1641)、嘉慶四年(1799)の書、他の2点は字径1m以上ある大書であり、1点は「忍」一字楷書、1点は「虎」の異体字「乕」一字草書であり、ともに明代あるいは清初の書と推定する。このような巨大一字墨書は、芦笛岩にも見られない、極めて珍しい形式であり、大岩壁書の特徴の一つであるといえる 2、墨書跡の判読と解読:すでに収集している墨書跡のデジタル画像によって判読を進め、文字資料140余点を厳選した。先行の調査・研究で知られているものは93点であり、その半数に近い約50点の新資料を得たことになる。剥落、浸食が進み、あるいは今人の落書き等によって消滅している部分もあり、全容の解明は固より不可能であるが、その約80%近くを解読すると同時に先行研究の誤りを多く訂正することができた。大岩の墨書の年代は総じて芦笛岩よりも新しいが、単なる遊洞・踏査の記念としての記録ではなく、周辺で起きた出来事を記述することが多く、これも大岩墨書の特徴の一つであるという知見を得た。中には明代靖江王の襲封、明末清初の王朝交替期における反乱・暴動等、重大事件に関するものがあり、史書・方志の記録を補足する貴重な史料であることが判明した。 3、年表と分布図の作成:墨書跡140余点の年代を、落款・人名・筆跡・言語・記事等の特徴によって可能な限り特定し、また同人同時の書を総合的に鑑定して一覧表を作成し、判読した墨書記載内容を配した。墨書跡には通し番号をつけて資料化を図り、洞内の地図を作成してその所在地点を明らかにした。
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