I.漢川市に赴いて宣講を記録した。 1.湖北省の研究機関とともに、平日と春節における漢川市の善書上演を調査した。その結果、平日は書館という演芸場で恒常的に上演されるが、春節は中国では新年が始まる特殊な時期であり、吉祥を祈願するためさまざまな芸能活動がおこなわれ、善書の宣講もそのひとつとして位置づけられること、出資者の違いによって個人レベルでの宣講と村落レベルでの宣講があること、宣講をおこなう人がすでに多くはなく、湖北省の「非物質文化遺産」(無形文化財)として認可されたが、時代の変化とともにいつかこの伝統文芸も消滅するかも知れず、存在を確認できるうちに調査をおこない、その実態について報告をおこなわなければならないことを知った。 2.漢川善書の創作は小説・演劇など地方の文芸を参照してなされている。申請者は漢川文化館や作者を訪問して善書のテキストの収集に努め、さらに湖北省の図書館において漢劇・楚劇・花鼓戯のテキストを収集して両者の比較をおこない、創作の実態に関して分析を進めている。 II.宣講に関する研究結果を発表した。 1.国際応用文学会(2005年8月、四川師範大学)において、善書の宣講を応用文の中の「講演録」として位置づけ、文盲の民衆を説得するためには、一般の講演とは異なり、詩歌の叙情力と小説の叙事力を応用することが必要であることを述べた。 2.宣講の形態について考察し、当初の善書の宣講は1〜2人の宣講師によっておこなわれていたが、現代の湖北省漢川市でおこなわれる善書の宣講は5名の宣講師が役柄を分担しており、演劇に近い表現力を持つようになったこと、それは民衆の娯楽性に対するニーズを満たすためであったこと、これに対して、仙桃市の宣講はなお当初の宣講のスタイルを継承していることを明らかにした。
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