中国において石印を利用した小説は、およそ1880年代から1930年代にかけての50年間ほどに集中している事実を追認できた。本年度の計画のうち、石印本出版の中心地であった上海の上海図書館での実地調査が実現し、書物の形態・書式や価格などの情報を得る点で成果を収めた。デジタルカメラでの撮影や書誌的記録を作成し、予備調査の目録の情報を確定させることに努め、木版との競合、鉛印との併合など、技術面の差異と社会的要請とに関する初歩的見通しがほぼついたと言える。特に光緒期の出版において、石印のみで発行されたと見られる小説の例が挙げられるのではないかと予想している。同時に、物品として購入予定であった「中国近代古籍出版発行史料叢刊」1セットが手元に届き、カード整備を進めることで、中華民国期に入ってからの情報を拡大増加させる目途がたった。 しかし、一方で阿英の目録記載や「小説書坊録」など先行文献に基づいて作成していた自作の目録稿は、実地調査での結果と隔たりを産む点も多く、目録の記載の在り方や同時代人の記録への信憑性、さらにより正確な情報収集などを考えさせられる結果ともなった。
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