平成20年度の研究成果は、大きくは、(1)学会発表(シンポジウムのパネラー参加)と(2)図書の刊行と(3)そのほかとに分けることができる。 (1)学会発表:有島武郎の小説作品「或る女」が、後に豊田四郎監督で映画化された。その映画化が、文芸映画と位置付けられ製作されたもので、文学史的な史実をなぞりながら、主人公葉子の通俗性が表現されていた。そのことを取り上げて、大衆的なメディアが、原作にあるそうした通俗性をより強調してしまったことに、メディア変換によって生まれる物語変容の事例を見た。また、新しい女として評価されてきた登場人物葉子の俗性が、こうしたメディア変換によって暴かれたことで、小説の新しい解読の可能性と、文学研究とメディア研究との相互的な研究交流の一面を示すことができた。 (2)図書の刊行:『オタク文化と蔓延する「ニセモノ」ビジネス』[単著全272p](2008年10月10日刊行戎光祥出版)では、小説「下妻物語」の映像化による語りのさまざまな映像水準による重層化が行われた結果、言語表現を回避したかたちでのエンターティメント性の強化がなされたことを示した。また、『20世紀メディア年表』[単著全240p](2009年2月20日刊行双文社出版)では、資料として小説の映像化の歴史的展開を示すことができた。 (3)そのほか:科学研究費報告書のデータ編として、2009年3月20日に研究費受給四年間の、小説原作テレビドラマのデータベースを作成発行した。
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