今年度は、(1)浙江省の慈渓市周巷鎮・庵東鎮地区、紹興市霊芝鎮・皐阜鎮、紹興地区新昌市、余姚市の調査を行い、民間演劇の上演実態について資料の収集に努めた、とりわけ(2)灘簀の系統に属する鸚歌班の再興についての資料(電子資料を含む)を収集し、吉利話(開演前の縁起話)の分析、鸚歌班の演員宋小青の上演状況の変遷に関する分析、及び灘簧系演劇再興の背景についての考察を行った。その結果、鸚歌班再興に関していえば、その大きな要因は次の様であるといえる。(1)その音楽面の特徴が詩讃系であることによって、唱も白も観客の好みに自由自在に応じうること(この点は蓮花落や宝巻にも共通している)。(2)小規模な演劇グループによって上演可能な演目が多いこと。(3)演目そのものが人々の実生活に根ざしているものであること。(4)改革開放で経済的ゆとりの出た人々が陰寿戯の上演などによって「孝」の実践を行い、ある種のアイデンティティを再構築しようとしていること。また、姚劇の調査からは、さまざまな地方劇の節回しや現代劇の積極的導入によって、演劇の再興を試みる現況をみたが、これも詩讃系演劇であることがさまざまな地方劇の節回しの導入を容易にしていると指摘できよう。このような民間演劇の再興に関して、文化局などでは実態を掌握していない、民レベルでの上演であることがわかる。一方、民間演劇のテキスト収集にも努め、「割麦龍図」「売花龍図」「売水龍図」「慈航宝巻」を調査し、電子化しているところである。これによって、以前のテキストとの相違も可能になり、今日の民間演劇再興の意味がはっきりするものと思われる。
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