今年度は、昨年の調査結果を中国語で論文にまとめ発表し、同時に、紹興・馬山地区の喧巻を中心に民間演劇再興の調査を行った。具体的調査項目は、上演地域、上演時期、上演場所、演劇開催単位、演劇開催目的(特に祭祀対象の神について)などの上演環境と、上演演目、上演テキスト、「吉利話」等の上演内容である。 馬山を中心とした地域においては、今日なお多くの喧巻人の存在を確認しえたが、その喧巻は、曲調と担当者の役割分担などがら「平巻」と「花巻」二分類できた。そのうち、「平巻」は、宗教的色彩に重きが置かれて、いわば原初的喧巻の姿をとどめているのに対し、「花巻」は主に越劇の影響を受けながら娯楽性を重視して戯曲化したものとなっていた。また、そのテキストは、両者共に孝順を主としたものがほとんどであった。 中でも、テキスト全体が7言からなり月ごとに花に寄せて孝順や夫婦親昵、近隣融和などを説く「花名宝巻」が紹興一帯で広く行われていたが、これは民国時代に喧巻されていたテキスト、或いは金華などの地域に流伝されているテキストと大差なく、その調査によって時間的・地域的な流布の実体を明確にすることが出来た。 ほかに、「割麦龍図宝巻」「売花龍図宝巻」「売水龍図宝巻」のいわゆる包公物も広く行われているが、これは越劇などの地方劇の影響、当地の包公信仰との関わりと切り離しては考えられない。包公物の宝巻テキストを題材に、地方の民間の「曲芸」が他種地方劇の影響をどのように受けていったのかを具体的に明らかにした。 なお、「花名宝巻」と包公物宝巻の考察結果は20年度に論文の形で発表する予定である。
|