平成18年度は、訪台による現地調査によるまとめ段階と位置付けた。 その結果、現在鹿野郷に残る資料(『鹿野郷史』)と、当時の新聞記事、さらには小説の内部調査から、濱田隼雄『南方移民村』に登場する医師のモデルが、小説の舞台となった鹿野村の診療所医師、神田善次氏であることを突き止め、モデル関係を明らかにした。さらに、当時の台湾公医の実態と影響関係、今日まで伝え語られている神田氏個人の事績についても、聞き取りを中心として明らかにすることができた。本調査の成果は、科学研究費補助金による台湾調査報告書として『濱田隼雄「南方移民村」と公医神田全次他』に詳細に示した。 一方で、坂口レイ子『曙光』から感受される移民の心情を相補するために、昨年度に引き続き、結婚して戦後もそのまま台湾に残った当時の日本人女性たちに聞き取りを行った。この試みを通じて、虚構の世界を具現化しつつ、逆に現実が言葉(小説)の世界にすくい上げられていく過程を検証しようと考えている。
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