濱田隼雄『南方移民村』に登場する医師のモデルが、小説の舞台となった鹿野村の診療所医師、神田善次氏であることを突き止め、モデル関係を明らかにした。さらに、当時の台湾公医の実態と影響関係、今日まで伝え語られている神田氏個人の事績についても、聞き取りを中心として明らかにすることができた。当時の新聞記事から、それぞれの医師が自らの決心で渡ってきていたらしいことがわかった。ただ、花蓮港庁や台東庁の援助はあったはずで、移民村そのものが総督府などが招聘して出来た以上、何らかの采配組織や補助などはあったと見る方が自然であるところまでは推測できるようになった。今後それを裏付ける公的な資料を突き止めることが課題として残る。 本調査の成果は、科学研究費補助金による台湾調査報告書として『戦前の日本語小説に表れた台湾の「日本人移民村」の文学的研究』に詳細に示した。 一方で、坂口レイ子『曙光』から感受される移民の心情を相補するために、日本の華僑たちから聞き取りを積極的に行った。日本から台湾へ渡ったのと逆であり、農村と商業都市の違い、時代背景も異なるが、異なる文化に入っていく心性の諸相について理解を深めた。
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