上記の研究課題に従って研究を進めた結果、今年度は2編の論文と1冊の著書を完成することができた。まず、論文「フリジア-北海沿岸を結ぶ言語の絆」は、ドイツの北フリジア語と東フリジア語、それにオランダの西フリジア語の3者について、その起源と歴史、現在の使用状況と社会的地位、言語政策・言語教育・言語研究の面での言語擁護にかんして、総括的な考察を施したものである。従来、フリジア語についてはヨーロッパ本国で出版された著書にも多くの誤解が見られ、それを盲目的に踏襲したと思われる日本の類書の記述も誤りに満ちていることが多い。本稿にはそうした誤解を払拭する役割がある。また、これによって、フリジア語全体における北フリジア語の社会言語学的な特徴も浮き彫りにすることができた。論文「言語規則と普遍性-フリジア語群と関連言語における名詞抱合、品詞転換、逆成」は、日本独文学会の学会誌『ドイツ文学』の語学特集号に寄稿したものである。ここでは、ドイツ語では周辺的な「名詞+動詞」型の非分離複合動詞を取り上げ、名詞抱合が例外的に生産的であるフリジア語の言語事実を援用することにより、従来のドイツ語語形成の扱いに再考を促した。また、言語現象の普遍性と言語規則の個別的要因の独立性についても注意を喚起した。著書『西フリジア語文法-現代北海ゲルマン語の体系的構造記述』はこれまでの申請者の西フリジア語研究の集大成として、博士論文を学術書の形にまとめたものだが、ここでは北フリジア語の言語事実に随所で言及することにより、大幅な改訂を行い、内容的に一層の充実をはかることができた。 以上のように、本研究初年度としてはすでにかなりの成果を挙げることができた。
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