研究課題/領域番号 |
17520248
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
柳田 賢二 東北大学, 東北アジア研究センター, 助教授 (90241562)
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研究分担者 |
菅野 裕臣 東京外国語大学, 名誉教授 (00091231)
成澤 勝 東北大学, 大学院環境科学研究科, 教授 (00180539)
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キーワード | ドゥンガン語 / ロシア語 / コードスイッチング / キルギス / 正書法 |
研究概要 |
研究代表者の柳田と分担者の菅野は、平成18年8月にキルギスの首都ビシケク近郊のドゥンガン人村‘Aleksandrovka'において現地研究を行った。柳田の主たる目的はそこでの社会言語学的「場面」とコードスイッチングの関係の分析のための音声資料採取であったが、ドゥンガン語・ロシア語コードスイッチングが行われていることは確認できても、この分析に叶う分量のデータを得るという目標は達成できなかった。その理由は、ドゥンガン人は敬虔なイスラム教徒であるため男の客の前にその家の女性たちが姿を現すことを控える傾向が非常に強く家族内の会話を収録することが難しいことのほか、以前に研究対象としたタシケント郊外の高麗人の初老層に比してビシケク郊外のドゥンガン人はロシア語の習熟度が高く柳田らとロシア語のみで会話することに不便を感じている様子が全くられないほどであったという事情による。また中央アジア、特にウズベキスタンの人々が話すロシア語について話者の母語の違いを超えた特異な非規範的現象が現れるのを現在までにたびたび耳にしてその重要性にも着目していたが、この点に関して言えば、今回の現地調査によって得られた感想は意外なものであった。Aleksandrovkaでは住民の95%がドゥンガン人であって老人から小児に至るまで周囲の諸民族と非常に異なる中国的な文化を強固に維持し、ドゥンガン語での日常言語生活を保っているにも拘わらず、彼らのうちの初老層が話すロシア語にはタシケント郊外の高麗人のそれに比べて明白な非規範的現象が現れることが少なく、母語とロシア語の双方の水準が高麗人の場合に比べて高いという印象を持ったのである。しかしこの差異は、高麗人とドゥンガン人との間に限ったことではない可能性が高い。一般にビシケクの人々は、最大民族であるキルギス人でさえも、タシケントのウズベク人に比してロシア語の習熟度が高いという印象を受ける。タシケントでは大人のウズベク人であっても著しく非文法的なロシア語を話すのをしばしば耳にするが、ビシケクではそうした経験をすることがはるかに少ない。この差異の原因究明という課題はソ連時代の学校教育その他の言語政策の差異に遡って行わざる得ない事柄であるが、こうした目的をも含めた平成19-21年度科研費課題(基盤研究(C))「現代中央アジア諸国における民族間共通語としてのロシア語の地位に関する比較研究」が採択をみたので、これについては同科研費課題において引き続き追究する。菅野は昨年度に引き続きドゥンガン語の語彙調査を行い、またそれと平行してドゥンガン語による出版物を可能な限り入手し、購入不可能なものはスキャニングによる電子ファイル化という手段を用いて大量に日本に持ち帰った。また、現地に存在するロシア語で書かれたドゥンガン人・ドゥンガン語関係資料についても可能な限り多くのものを同じ方法で持ち帰り、整理して「ドゥンガン関係論著,略歴目録」を作成した。さらに、得られた文献と言語資料の分析の結果得られた知見を基に「ドゥンガン語と正書法」を執筆した。これらは本科研費の研究成果報告書に掲載される予定である。
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