本研究二年目に当たる本年度に於ける研究活動の中核は、昨年度と基本的には同様に、三度に亙るムンダ族の居住地での現地調査が成す。今年度は、12月末と2月・3月にそれぞれ二週間強の日程で実施した。実施方法は、研究者の用意する質問事項に対してインフォーマントが答え、研究者がその場でそれをノートし、帰国後にデータの分析を試みるという、ある意味で伝統的なインフォーマント・インタビューである。 ムンダ族は主にインド東部のジャールカンド州を中心に居住するが、研究者は同地域への昨年度第一回目の予備的調査でインフォーマントを確保し、以来、同一インフォーマントの協力を得て聞き取り調査を行なってきた。データの多様性を担保することはできないが、対象がこれまではほとんど調査されたことのない西部方言であるため、基本構造の徹底解明が急務である現段階では必要不可欠のステップと考える。 実際、研究者も当初、予備知識は実質的にほとんどゼロだったにも拘わらず、二年目の調査活動が終わった現時点で、文法構造の基幹部分についてはかなりのところまで解明できたと考えられ、来年度からは語彙方面と口語に特徴的な文体的特質に関しての調査への対象拡大を検討するまでになった。昨年度より、具体的には時制とアスペクト関係の形態的構造を中心に探ってきたが、調査対象のムンダ語西部語群に於いても、これまで主に研究されてきた東部語群と同様の文法的カテゴリーを保持しつつも、形態的には東部語群とはかなり違った形態素と統辞メカニズムを擁す実態が明らかになりつつある。 来年度は、これまでの調査を元に先ずは中間報告を論文の形でまとめ、年度後半に予定している現地調査で収集すべき欠落データの特定作業を進めることとしたい。早いうちに成果が上がれば、来年度はタイ・ミャンマー地区での現地調査も含め、モン・クメール諸語との接点を探る調査にも手を掛けることとなろう。
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