今年度も前年度に引き続き、インド・ジャールカンド州の州都Ranchi市周辺に於いてムンダ語ナグリ方言のインフォーマント・インタビューによる現地調査を中心に活動を展開した。フィールドワークの実施ができない年度前半には主に前年度のデータ整理と情報欠落部分のリスト・アップを行ない、後半の実地調査に備える作業に取り組んだ。 今年度は全部で二回の調査を実施し、前年度までにデータ自体は比較的豊富に揃いながらも言語学的解釈上、なかなか釈然としなかった未来時制に於ける過去・完了のマーカーの出没など、幾多の疑問点の解明に努めた結果、そうした疑問点の相当部分を明らかにすることができた。 更に、動詞の形態的特質上、これまで明確に位置づけられなかった、-n/-dの対立に集約して観察されるtransitivityとアスペクトの関係などについてもかなりの精度で解明が進展したように思う。今年度は問題の所在を特定する程度の論文しか発表できなかったが、この種の諸問題については来年度から順次、学術論文の形で公表していきたい。 今年度の調査では、こうしたムンダ語の構造に関する狭義の言語学的な分析に加え、近い将来に予定しているこの言語への語学導入書の編集に必要となる、口語体による対話データの収集もかなりのところまで進んだ。これをべースに、来年度は語学書に盛り込むための基本的語彙の収集にも努めたい。
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