研究概要 |
本年度はまず,昨年度の調査・研究で得られた知見,『言語と音楽の「バトル」は,呼びかけチャント(以下VC)のメロディーだけではなくそれに伴う独特のリズムに関しても繰り広げられており,その説明は,メロディーの場合と同様に,言語の音韻上の類型を考慮することにより可能になる』という前提に基づいて次の作業を行った。(1)昨年度取得した日本語の東京方言と福井方言及び韓国語のソウル方言と慶尚道方言のVCデータを分析しリズムの特徴を明らかにした。(2)文献に基づき英語とベンガル語のVCを調査した。 (1)と(2)から得られた結果は次のとおりである:日本語と韓国語では,ピッチの高低にかかわらず,音楽側の強勢拍下に生起する音節またはモーラが長音化し,独特のVCリズムが成立している。弁別的な強勢を持つ英語では,VCに伴う語彙中の強勢音節が音楽側の強勢拍下に生起し,これが長音化することで,特有のVCリズムが生じている。さらに,強勢が弁別的ではないベンガル語では,音楽側の強勢拍下に生起する音節の長音化が,VCリズムの要因となっている。 すなわち,ピッチ高低が音韻体系の基盤をなす言語と音韻上強勢体系を持つが強勢が非弁別的な言語では,VCリズムを特徴付ける長音化は音楽側の主要要素下に起きる。一方,弁別的な強勢を持っ言語のVCリズムは,音楽側の主要要素と言語側の主要要素が引き合うことで生じる長音化によって特徴付けられる。言語と音楽の「バトル」という観点から言うと,前者は音楽の勝利,後者は言語と音楽の引き分けのケースなのである。 以上の結果は,平成18年7月24日,ソウル大学で開催されたソウル言語学会国際大会(SICOL 2006)において口頭発表した。また,その一部分は,"Melody, Rhythm, and Prosodic Structure in Linguistic Chants"として11に記載の図書中に著した。
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