研究概要 |
本研究は,言語と音楽の接点において,伝統音楽のメロディーとリズムの決定権をめぐり,両者の間で「バトル」がくり広げられているという観点から,ラトガース大学准教授Young-mee Cho氏を海外研究協力者として,平成17年から18年度の2年間にわたり実施したものである。本研究では主に,伝統音楽中「となえうた」のうち,呼びかけチャント(Vocative Chant,以下VC)を対象とし,資料の収集・分析を行った。 平成17年度には,福井方言と慶尚道方言の言語学的特徴(韻律上の特徴)と韓国の伝統音楽の一般的特徴について調査した。(東京方言とソウル方言,日本の伝統音楽の一般的特徴に関しては,年度開始以前に調査済みであった。)また,各方言のネイティブ・スピーカーからVCの音声データを収集し,分析した。これらの作業で得られた新たな知見の一つは,言語と音楽の「バトル」が伝統音楽のメロディーだけではなく,それに伴う独特のリズムに関してもくり広げられており,その説明は,メロディーの場合と同様に言語の音韻上の類型を考慮することによって可能になるということである。 そこで平成18年度には,日本語と韓国語以外のVCリズムも調査した。その結果,VCにおけるリズム形式の決定には,プラスアルファの要因として,韻律体系の弁別性が深く関与していることが明らかになった。 以上の調査結果の一部は,平成18年7月24日,ソウル大学で開催されたソウル言語学会国際大会(SICOL 2006)において口頭発表した。また,"Melody, Rhythm, and Prosodic Structure in Linguistic Chants"として,11に記載の図書中に著した。
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