自然言語の統語規則を支配する一般的な原理に関する理論的な研究のうち、今年度は特に生成文法がこの半世紀に推進してきた統語理論の問題点を検証した。生成文法の方法論に関する問題としてよく知られているのは、文が表示する意味と文の構造の関係に対する考察が不十分だということである。しかしながら、この理論が提示する最も重大な問題は、疑い得ない原理に基づいて仮説を構築し、その仮説の妥当性を具体的事例によって論理的に検証するという、科学が従うべきもっとも基本的な手続きが厳密な形で実行されていないということである。この問題点を解決するために、本研究では、人間の言語を対象とする観察および人間の認識に関する従来の知見から得られた、自然言語が確実にもつと判断される特性を原理に当たるものとして設定し、この原理のみを出発点として論理的に仮説を導く方法を提案した。この際には、形態素が一次元的に配列されて文を作り、形態素の一次元列を受信者が理解する際に、与えられた形態素の意味を、形態素配列規則に従って順次組み合わせて事態を構成する仕組みを、事態の内容が限定されていく過程として数値的に捉え直す方法を使用している。形態素配列規則が決定される場合には、事態の内容がより大きく限定される配列が選択される傾向があることが、すでに研究によって明らかにされているが、この傾向をできるだけ多くの言語のデータによって確実なものとして認定できるようにするために、現在、世界の諸言語が示す統語規則に関するデータベースを構築中である。このデータベースが完成すれば、以前よりも容易に諸言語の統語規則に関する情報が引き出せるようになる見込みである。
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