研究概要 |
本年度は、昨年度に行った事象構造と時間・談話構造との相互関係の実態把握のためのデータの分析結果から、 (1)テイル形述語を用いた現在完了文に生起する時間副詞のタイプ(p-definiteかnon-definiteか) (2)テイル形述語を用いた現在完了文に生起する時間副詞のタイプ(dynamicかstateか) (3)話者の当該事象に対する認識状況 (4)テイル形述語を用いた現在完了文の単純過去時制であるタ形への言い換え可能性 (5)テイル形述語を用いた現在完了文の参照時のタイプ(p-definiteかnon-definiteか) の5点を選び、これらの項目に焦点を絞ってさらにデータを精査した。その結果、 (i)テイル形述語を用いた現在完了文では、テイル形術後を含むVPもしくはAP自体は、事象の開始・完了いずれの限界点ももたない。むしろ、Portner, Fernando, Parsonsらによって提唱され慣性(inertia)をその特性として持つ。 (ii)参照時は慣性(inertia)の流れを中断するものであり、慣性を特性とした事象はこれらの時間にテイル形を介して写像される。 (iii)したがって、現在進行のテイル文と現在完了のテイル文は原理的には同じタイプの文であり、解釈の違いは参照時が発話時か否かの違いに還元される。 ことが導かれた。 ただし、テイル文には、p-definite・non p-definite双方の時間副詞との共起を一切許さない例がある。このことは参照時への事象の写像としてテイル文を一律に捉えられないことを示している。このタイプの文は過去の出来事を発話時に知覚した状態で発話される。したがって、p-definite・non p-definiteの対立に加えて、[参照時(≠発話時)×過去事象(2,3人称動作主)]と[参照時(=発話時)×過去事象(動作主人称制限なし)]の対立を考慮する必要がある。後者の対立が話者の認知状況の反映であるとすると、このような要因を取り込み可能な新たなテンス・アスペクトの構図が必要である。この問題の解決は次年度の課題である。
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