2年目にあたる18年度は、当初、香川・徳島両県の調査を予定したが、高知県と岡山県へも調査範囲を広げて、合計8地点の実地調査を行った。詳細は以下の通りである((1)(4)(6)徳島県(2)(7)高知県(3)(8)香川県(5)岡山県)。 (1)西祖谷山村(2)檮原町(3)高松市(4)徳島市(5)児島市下津井(6)海陽町(7)室戸岬町(8)善通寺市 実施期間は(1)6月・11月、(2)7月、(3)(4)9月、(5)11月、(6)(7)(8)3月、で、大学関係業務の範囲外で、休日や授業のない期間を最大限に利用して、1年間を偏りなく活用できた点が、前年度と大きく異なる点である。今年度も心がけたい。 1.前年度の調査地、愛媛県宇和島市できわめて優勢であった感動表現の「〜や」形式は、オトロシヤ・オトロッシャを例外として、香川・徳島・高知県では振るわないことがほぼ明らかとなった。「恐ろしい」感情にのみ、なぜ、ヤが残存するのかについては、同じ形式が驚いた時に発することばとしても用いられる事実と無関係ではないと考えられる。驚愕と恐怖とを瞬時に峻別し言語化することは実際的ではないとも言える。 2.失敗した時や残念な気持ちを表す表現に、シモータ・シモタを用いるのは四国全体の共通点であるが、(2)(7)でバッサリが用いられ、(1)(3)(6)で「バッサリは高知のことば」であることが知られている。しかも、高知県境の徳島県海陽町宍喰では、地元のことばであるという複数の教示が得られた。高知県にのみ限定されるわけではないことになる。「ヤマッタ」については、「止まった」以外の意味での使用は確認できていない。 3.「どこ・だれ・なに(どれ)・いつ」に「〜でもは」を下接し否定で結ぶ表現は、(1)(2)(3)(5)(8)と(4)(6)(7)でかなり大きな差が認められる。つまり、四国を西へ向かうほど、この表現形式が不活発であるとの印象を強くした。市町村の郷土史の「方言」の部に採録された語彙記述を網羅すると、香川県は東讃には認められるものの、西讃に劣勢であることが予想される。隣り合う徳島県では、(1)を除いて、(4)(6)は皆無である。(6)とは海岸線でつながる高知県(7)では聞けなかった。しかし、同じ徳島県でも西の山間部で香川・高知県境に位置する(1)ではドコバレ、高知県の山間部で愛媛県境の(2)ではドコンマーリ、などのように、愛媛県・香川県のドコマリ・ドコバリとは異なる発音形の存在が確かめられた。さらに、香川県の内陸部(3)ではドコバリとドコバレがともに使用されるということもわかってきた。これらは、単なる発音の相通にとどまらず、原形を推察する上でとくに重要な情報を提供してくれる。また、今後、周圏的分布を想定する上でも示唆的である。この視点を明確にするために、孜第に瀬戸内海をはさんだ中国地方の要地調査の必要を感じている。すでに岡山県の(5)にドコバリが確認できたので、広島県・山口県などの島嶼・沿岸部の数地.点の調査ができれば、四国地方の双方向的変化の実態がより客観的に構築できる可能性がある。
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