文理解のプロセスには、人間が行う様々な認知的情報処理がかかわっている。本研究では、文理解研究の方法論に関して、具体的ないくつかの問題を考察した。音韻処理の結果が統語処理に及ぼす影響を検証することを目的とし、日本語の関係節を含む文の処理における顕在的韻律情報について検証を行った。また、中国語の空主語文を用いて、英語と日本語の空主語文処理の結果を検証した。さらに、精神分析的概念である"葛藤"や"(比喩的)解釈"について心理言語学的データを基に検討した。 本研究の特色は、脳波の一種である事象関連電位(ERP)を用いることにより、文理解が時間の経過とともにどのようなプロセスをたどっていくのかを検討したことである。特に、「文末動詞と名詞との一致・不一致現象」や「数量詞と名詞との一致・不一致現象」を詳細に観察する事により、文理解における情報の保持・統合などのプロセスを明らかにした。こうした一連の研究により、文理解に伴って生じる様々な現象が人間の脳内の神経生理学的な現象とどのように結びついているのかを明らかにしていくための手がかりの一端が得られた。最近の脳科学研究の進展に伴って、文理解に関する研究は新しい局面を迎えようとしている。しかし、「日本語の文理解に関しては、そうした統合的研究はいまだに十分にはなされていないのが現状である。今後も着実な実証研究と理論的裏付けをもった研究が進展して行くことが必要である。 なお、日本学術振興会の助成を受けて、平成17年2月12・13、「意図の伝達スキル(Communicating Skills of Intention)」という国際シンポジウムが開催された。平成18年度は、このシンポに基づいて言語コミュニケーションを主とる論文集の編集・出版を行った。
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