研究概要 |
2006年度8月22日、14^<th> International Conference on English Historical Linguisticsにおいて、"Rivalry among verbs of wanting"と題して研究発表を行った(その後、論文として投稿)。そこでは、Helsinki Corpus, Archer Corpus, LOB Corpusを基に、4つの動詞desire, hope, want, wishが史的変遷の過程で、どのようにその意味・統語的棲み分けを行っていったかを文法化との関連で論じた。周知のように、1066年のNorman Conquest以後、英語に多量のフランス語彙が流入された。さらに、単に語彙だけではなく、フランス語の表現、イディオムなども英語の構造に影響を及ぼした。本研究発表では、これらの動詞の競合関係を論じるにあたり、Old Frenchから13世紀に英語に借入され特に動詞desireに注目した。この動詞は15世紀頃から、hope, want, wishと競合関係に入った。借入動詞desireは中英語期(例えばChaucer)には頻繁であったが、初期近代英語期(例えばShakespeare)を境に、その用法は減少していき、現代英語においては文語的になった。かつて使われていた"desire + NP + to-infinitiveや"desire + that"の構文に関しては、特に前者は現代英語では姿を消し、後者も頻度はきわめて低くなっていった。なぜdesireの領域が狭まっていったのかということに関して、to不定詞用法については、wantにより侵食され、that節を取ることの減少については、hopeによる侵食が考えられる。また、that節内のtenseやmood(特に仮定法)の用法に関しては、wishにより大部分取って代わられたことなど考えられる。今後の研究としては、ジャンルやレジスターによってもどの程度の違いがあるのか。さらには、やはり16世紀頃にフランス語から英語に借入された動詞expect, anticipate等をも考察し、いわゆる'verbs of wanting'全体の解明に取り組みたい。
|