研究概要 |
1.モダリティの文法化・意味変化とその方向性に関する分析 本研究では、モダリティの意味変化を伴う文法化プロセス、即ち、既に文法的機能を獲得した形式の意味機能がさらに拡大するプロセス(多機能化)や機能的意味の意味区分が固定化されるプロセス(特定的意味への分化)など、文法化プロセスの後のさらなる意味変化に焦点を当てながら、モダリティ概念に関する歴史的意味変化の分析を重ねていった。.その研究総括として、ヨーロッパ言語(独語、英語)とアジア言語(日本語、中国語、タイ語)の分析を紹介すべく、日本認知言語学会第8回大会においてワークショップを開催した。そこでは、deonticからepistemicという一方向性以外に、個別言語のモーダルマーカーによっては、deonticからevidentialへ、deonticからdeonticへ、epistemicからdeonticへと意味変化の可能性が多岐にわたってみられた。さらに、認知類型論的観点から、様々な言語に現れる、有限個にまとめられる認知プロセスにはどのようなものがあり、各言語にそれがどのように現れているかについての実証研究が発表された。 2.個別言語の文法化現象にみられる特異な意味変化を引き起こす誘因や動機付けに関する考察 歴史的意味変化の動機や方向性は言語によって異なる(黒滝2004)という仮説をさらに検証するために、個別言語にみられる特異な文法化現象から意味構造のあり方や成り立ちを分析した。その上で、「印欧語モダリティは"意志"が分化の鍵となっているが、一方、日本語、タイ語、中国語や韓国語などのモダリティにおいては"否定"が分化の引き金となっている。」という仮説を構築した。総じて、認知類型論(池上1981,Kemmer 2003)的観点から洞察し、言語による相違を認知様式の類型(文化モデル)の違いにより追究していった。個別性と普遍性のあり方について具体的な示唆が得られたという点で本研究の意義は大いにある。以上の内容の研究成果は、研究論文や学会発表を通じて公開した(裏面参照)。
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