日本手話では、「手型」、「位置」、「動き」の3つのカテゴリに属する要素がそれぞれ音素として機能し音節が形成される。ただし、可能な組み合わせのすべてが適格なわけではない。音節の適格性を決定する条件の一つが音節情報量制約である。しかし、この制約を遵守している音素結合でも、なお不適格と判定されるものある。当該の研究では、音節情報量制約以外に、音節の適格性を左右する条件を探し出すために、平成17年度、以下の研究を実施した。 1.音節情報量制約を遵守しているにもかかわらず不適格とみなされる音素結合はタイプ3(両手手話:利き手と非利き手の手型が異なり、利き手は動くが非利き手は動かない)と呼ばれる音節に多く見られる。そこで、以下の条件(1)〜(5)に適合するタイプ3の音素結合を人為的に作成した(以下の条件に従うものはすべて音節情報量制約を遵守している)。 (1)非利き手:実際に日本手話の非利き手に現れる26種類。方向は、両手接触がある場合は手の平上向き、無い場合は、手の平異側向き。 (2)利き手:実際に日本手話の利き手に現れる44種類。方向は、小指側下向き、手の平異側向き。 (3)位置は、ニュートラルスペース(タイプ3では、ニュートラルスペース以外の位置はほとんど例外的にしか用いられないため) (4)動き:利き手の動きは、上から下方向への軌跡移動(タイプ3においては軌跡移動を伴う頻度が一番高いため、今回は軌跡移動を動き要素の代表として採用)。非利き手は静止。 (5)上記(1)〜(4)の音素結合で、調動中に両手が接触するものと接触しないものを作成。 2.上記1の条件にしたがって作成した音素結合を、日本手話母語話者に表出してもらい、それらすべてを動画像として電子的に記録した(約2300個)。 3.平成18年度は、上記2の動画をランダムに並べ替え、日本手話使用者の協力を得て、それぞれの音素結合の適格性の判定作業を行う。
|