平成17年度では、ロシア語副動詞に限って研究した。従来の研究では本動詞しか前景と関係しないと言われていたが、非述語形である副動詞(特に完了体)が前景と強く関係していることを最近の文学作品を分析して明らかにした。また18世紀と19世紀の文学作品での完了体副動詞過去と完了体副動詞現在を情報構造の観点から比較し、その結果、同じ完了体でも完了体副動詞現在の方が完了体副動詞過去よりも前景に関与しやすいことが判明した。さらにこの二つの副動詞の語彙分類を行い他動性との関係を調べた結果、完了体副動詞過去には特徴的な傾向は見られないが、完了体副動詞現在は他動性の低い動詞での使用が際立っていた。こういった完了体副動詞現在の特異性は一般言語学で普遍化されつつある理論「属性叙述は事象叙述に比べ一般規則に従わない現象が現れやすい」を裏づける新証拠となる。 平成18年度では、ロシア語と他言語の副動詞の比較研究を行った。まずテクストにおける日本語とロシア語の副動詞を比較し、日本語副動詞の方がロシア語副動詞よりもテクストで前景要素と関係が深く、これには日本語の持つ主観性の強さが影響していることを明らかにした。次に、副動詞主体に関して、スラブ諸語、ゲルマン諸語、ロマンス諸語、アジア諸語と比較し、ロシア語副動詞主体の問題点を浮き彫りにした。そして、さらにロシア語副動詞主体に関する問題の分析考察を行い、ロシア語副動詞主体と本動詞主体の関係の揺れを明らかにし、それには話し手(書き手)の心的態度が大きく影響していること、そしてこの問題には一般言語学のトピック的問題となっている不可分性のハイアラーキーが反映していることを解明した。
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