本研究は、従来の文文法では捉えられなかった伝達話法の談話におけるメカニズムを言語科学の新たな理論的枠組みである認知語用論の視点から分析することにより、伝達を認知、談話、文法の側面から多角的に捉えながらもそれらを統合して、伝達に関わる文法構造、談話情報構造、認知システム、話法の構築プロセスまでを体系的に解明することを目的とするものである。 まず認知言語学及び談話情報論の視点を統合し認知語用論というアプローチを定義するため、一方で談話の構成単位、情報の流れとlinkage、認知と意識による情報制約と文法構造、また一方で認知スペースや注意のフレームの概念をベースにした談話展開の捉え方を整理し、日常会話における伝達場面でこれらが実際の言語運用に用いられるメカニズムを分析した。このため、フィールドワークによるデータ収集に基づき、あらゆるレベルの人間関係と場面設定を含んだ日常伝達言語の分析を進めてきた。 第一に、イントネーションユニットとCDSモデルをベースにして、自然な日常会話データにおける談話展開プロセスと言語事象の背景となる認知プロセスの説明を試みた。連続した発話のそれぞれが先行発話に次々に積み重ねられていくことでCDSを更新していく様子が明らかになった。第二に、慣習化された注意のフレーム様式と構文スキーマに対して、口語談話における自然なIU分割の背後で情報の制約(特に情報の新旧に関わる制約)が果たす役割を検証し、習得とストラテジーとの関係を探求した。
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