研究概要 |
本研究は、従来の文文法では捉えられなかった自然な口語談話における伝達のメカニズムを、認知言語学、談話情報理論、社会的相互行為理論の多角的視座から分析することにより、伝達に関わる文法構造、談話情報構造、認知システム、構築プロセスまでを解明し、認知と談話の視点を統合した新しい伝達理論を構築しようとするものである。 本年度は主に、会話や相互行為の認知的背景を探るため、DuBois(2000,2001)の対話統語論に基づき、自然な会話における言語形式間の響鳴関係を詳細に分析した。会話の参与者がパターンやスキーマの共通認知に基づいて響鳴を追求・保持することにより、一貫性や話者間の協調などに寄与し、スムーズな談話の流れやコミュニケーション効果を生み出す:プロセスを探求した。具体的には、多数の話者を含む長めの日常会話データを対象にして、ダイアグラフを用いて発話間のマッピング関係を明らかにすることにより、(1)言語形式や構造のemergenceと文法化、(2)繰り返しに伴う語用論的意味の変化、(3)話者のスキーマ化と拡張の能力、(4)プライミング効果、(5)響鳴の選択的性質と動機、の各点を焦点にして詳細に分析を進めた。特に、話者達が基本スキーマを即座に認識した上でそれを様々な方向に拡張していく様子と、文脈に応じて選択的に先行発話に響鳴する様子を詳細に記述した。 この結果、語彙項目や文法構造だけでなく発話内容や談話の流れ自体までもが発話間の饗鳴に大きく影響を受けており、この響鳴の基盤となっているのは、抽象化、スキーマ化、拡張、など、話者間で共有された認知のプロセろであることが明らかになった。特に、多くの話者を含む会話において、この点は、会話の盛り上がりやスピード等に重要な役割を果たしている。
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