本研究は、日常言語の対話的そして伝達的性質を、認知言語学、談話情報理論、社会的相互行為理論の多角的視座から分析することにより、伝達に関わる文法構造、談話情報構造、認知システム、構築プロセスまでを解明し、認知と談話の視点を統合した新しい伝達理論を構築しようとするものである。 最終年度である本年度は、まず、認知語用論に関して文献収集とreviewを完了し、認知語用論のアプローチを整理した上で、認知的側面と社会的側面を組み込んだ新しい語用論研究の方向性についてまとめた。続いて、談話と文法の連関について、対話における文法の構築メカニズムとその認知的背景、すなわち文法化の普遍的プロセスを通して自然な談話に繰り返し生じるパターンが結晶化されるメカニズムを対話統語論と認知言語学の両視点から分析した。具体的には、響鳴による発話産出のメカニズムを調べるため、(1)スキーマに基づく構文上の響鳴、(2)テキスト・語用論上の響鳴、(3)語彙表現の創発につながる響鳴、の各項目についてデータ分析を行った。さらに、(4)対話における響鳴の意義やプライミングのメカニズム、そして(5)対話に依拠する言語獲得のプロセスを調べた。最後に、対話統語論と認知言語学の統合的知見として、響鳴とプライミングをキーワードとする前者のアプローチとプロトタイプやスキーマをキーワードとする後者のアプローチとの接点を整理し、認知と対話とコミュニケーションとの関係についてまとめた。
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