本研究の目的は、文法に関して、(i)同一言語の地域方言間や同一地域内の話者間にみられる変異の状況を解明すること、(ii)これを足掛かりに、現在において変異の状況を現出せしめている通時的な変化の過程を解明することにある。対象言語は、日本語(岡山市を中心に西日本の諸方言)オリヤ語(インド東部で話される印欧語)と、今年度新たに、ディヴェヒ語(モルディヴで話される印欧語)を取り上げた。本年度実施の作業は、次に述べるように4類にまとめられる。 1. 日本語の資料収集・整理。通年行った。岡山方言について、約千名の話者を対象にアンケート調査を行ない、回答を統計的に整理した。また、対象地域を広く取って、インターネット・サイト上などのテキストから実例を採取した。題材には、補助動詞「おく」の用法などを取り扱った。岡山市方言を含む西日本諸方言にわたって進行中の文法変化について、一端を明らかにした。 2. オリヤ語の資料整理。17から19年度に実施した現地調査で得た資料を整理した。また、国内において、インターネット・サイト上のテキストや、現地入手の出版物から実例を採取し、資料を補った。これらの作業では、オリヤ語の文法-特に、使役関係の表現方法-に関する資料を集積した。 3. ディヴェヒ語の資料収集。平成21年3〜4月に、モルディヴ共和国、マーレ市において、ディヴェヒ語の文法調査を行った。山部が1997年に同地で実施した調査を再開したものである。当時と同じ情報提供者2名と9日間面接を持ち、文法の基本項目を調査した。 4. 理論的考察と成果発表。上記の作業1〜3によって詳らかにした、三言語の諸現象について、動機付けを考察した。また、三言語を相互に対照させたり、(既存の研究文献を参照して)他言語と対照させたりして、三言語それぞれの類型的性格を考察した。
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