1、『平家物語』の伝本を収集し、表記体と文体の関係を考えるために、諸本の比較分析のための対照表を作成し、表記体が文体にどのような影響を及ぼしつつ、流布本への生成・展開を成し遂げたかの考察のための資料の整備をおこなった。これは、未刊であるがこれをもとに最終年度に、いわゆる変体漢文および真名本、漢字片仮名交じり、漢字平仮名交じり、平仮名漢字交じりの文章的な意義付けを行う。 2、平仮名・片仮名の役割を考えるための基礎理論の整備として、漢字の借音用法から日本語表記のための表音文字としての仮名への発展過程を考察し、それが、日本語音の認識、日本語の形態素の分節化、字義からの離脱が、仮名して成立する必須条件であることを確認し、「「仮借」から「仮名」へ-日本語と中国語とのひとつの交渉史-」『日中対照言語学研究論文集中国語からみた日本語の特徴日本語からみた中国語の特徴』(和泉書院)として発表した。 3、いわゆる変体漢文から和漢混淆文へと展開する道筋を明らかにするために、漢字の構造を形・音・義の3要素と言語の分節性との関係を、ソシュールやマルティネの把握に対応させて説明し、語義と字義の微妙な差異が、漢字の意味の拡張や限定に及ぼすものとして諸例をあげて記述し、仮名への展望を字義からの開放としてとらえなおし、これを『朝倉漢字講座2漢字のはたらき』(朝倉書店)の中の1章「意味と漢字」の中に含めて発表した。 4、以上の成果を、中国の精華大学、および北京大学のシンポジウムにおいて口頭発表した。
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