従来より纏まった形ではその全体像を把握し難い天台宗系統の訓点資料の研究を行ない、現在は天台真盛宗総本山西教寺の聖教に注目して、天台宗山門派の聖教を個別に調査して来た。 その結果として、西教寺正教蔵が比叡山西塔北谷正教蔵に由来する聖教であることを確認し、そこに存する訓点資料の全ての抽出とその書誌的データの目録化、そして、それらに基づく南北朝期以前の訓点資料に関する分析を行なった。併せて、叡山文庫において比叡山西塔北谷正教蔵の古地図並びに正教蔵の前身である芦浦観音寺聖教の目録の存することを確認し、それらに基づく比叡山西塔北谷正教蔵の形成の問題を検討してきた。 その結果を「西教寺正教蔵の訓点資料について」(『小林芳規博士喜寿記念論文集』)に纏めた。その成果として、以下の如きことも明らかにした。 (1)西教寺聖教の正教蔵とされる聖教が比叡山西塔北谷正教坊を由来とする聖教であること。(その形成過程の解明) (2)西教寺正教蔵に存する訓点資料の具体的な把握とその分析。 (3)比叡山西塔北谷正教坊聖教の実態は天台僧舜興によって集書されたものであること。また、舜興は比叡山葛川の総一和尚となるなど、幅広く活躍する人物として多くの聖教を収集できる立場にあったこと (4)比叡山における聖教調査における里坊を視野に入れた調査の重要性 また、上記聖教と併せて、滋賀県下の浄土教関係聖教の調査として、浄厳院聖教の調査を行なうことが可能となったことは今年度の大きな成果でもある。 その他、系図データベースの作成も進めているところである。
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