抄物は日本語史研究資料として価値が高い。それにもかかわらず、今日まで学界において利用されている資料はほんの一部にとどまっている。本研究は、抄物を発掘・調査し、伝存する抄物の総日録を完成して、日本語研究に資せんとするものである。平成18年度においては次の成果を得た。 1、現地調査 駒沢大学・東京医科歯科大学・お茶の水図書館・国立公文書館・国会図書館・篠山鳳鳴高校・大谷大学・高山寺・護王会館・京都府医師会館・阪本龍門文庫・天理図書館等において抄物を発掘し、調査不十分な抄物を再調査した。その結果『雲門録抄』『従容臆断』等の新資料を発掘できた。お茶の水図書館・天理図書館・国会図書館においては原典への書入れ抄の調査を進めている。また、内藤記念くすり博物館・神戸女子大学・京都女子大学・日文研・岡山大学医学部等の抄物の複写物を入手し、考察を進めた。 2、資料性の解明 目録の作成は、漢籍を終え、仏書にかかっている。『百丈清規抄』『六物図抄』等、仏書の抄物の諸本を整理し、それぞれの資料性の解明を行った。また、漢籍の抄物も新たに見つかる物があり、日録補訂のために、『蒙求抄』『三体詩抄』等の資料性の解明につとめた。『虚堂録』等の書入れ抄についての研究と、『和名集井異名製剤記』等の特定の原典を持たない一種の秒物についての研究も、諸本の整備、各本の資料性の解明等を中心に、大幅に進めることができた。 3、目録作成 新しく発掘・調査した抄物を既に作成している目録「抄物日録稿」(『訓点語と訓点資料』70 1983年、113 2004年)に組み込んだ。仏書の抄物、書入れ仮名抄、特定の原典を持たない一種の抄物、の目録化も進めた。
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