本研究の目的は、自然言語の統語構造における平行的多重性の存在を実証的に検証し、そのような構造の多重性自体を明確に捉え、適切な範囲でそれを可能とする文法理論を構築するとともに、その多重性が意味構造とどのように関係するのかを明らかにすることにある。 今年度は3年計画の1年目として、研究を進める上での基盤とするべく、これまでの理論とデータの収集・整理・検討に重点をおいた。具体的には、生成文法においてこれまでなされてきた研究の中から、特に本研究の対象である構造の不確定性と関連性を持つ統語構造に関する記述を抽出整理し、その理論的・経験的問題点を明確化するよう試みた。さらに、最近のMinimalist Programに基づく理論的・実証的研究を検討し、その統語構造の取り扱いに関する問題点を整理した。また、現代英語の実際の言語資料により、本研究に関連し記述・説明されるべき種々の事実関係をできるだけ詳細に調査した。 今年度の具体的成果としては、現代英語のとくにインフォーマルな会話やインターネットなどで近年多く観察されるようになってきたbe動詞の重複現象について言語事実を詳細に調査することから、もっとも基本的と思われるis isという重複から、are isやwas wasなど他の形への拡張が、基本形の持ついくつかの特徴のひとつを変化させることにより順次派生的なものに拡張していることを明らかにした。そして、be重複現象の拡張様態を説明する枠組みとしてKajita(1977)以降展開されてきた動的文法理論、拡張理論が有効であることを示した。
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