研究概要 |
語形成に演算と記憶という異なる心内・脳内メカニズムが関与すると考える二重メカニズムモデルを作業仮説とし、使役構文の処理メカニズムを明らかにすべく,2003年度から128チャンネル脳波装置を用いて行った事象関連電位実験の結果を,2005年4月に米国のCognitive Neuroscience Societyの年次大会で発表し,論文としてまとめた。現在,国際学術誌に投稿し,査読者のコメントを得て改訂中である。概要は以下の通り。 語幹を共有する語彙使役とサセ使役のペアを用いて、語彙使役文では正文(料理を並べる)と意味選択の逸脱文(歓声を並べる)、サセ使役では正文(選手を並ばせる)とサセの選択制限違反の逸脱文(料理を並ばせる)とを刺激文とし、それぞれ正文と逸脱文との波形比較および正文同士の波形比較を行った。語彙使役文では逸脱文における文末動詞で意味的な処理を反映するN400成分が出現した。一方サセ使役文では,前頭部陰性波ANおよびN400が観察され,サセ使役の処理に演算的側面が関わっていることが示唆された。正文同士の比較では,サセ使役にP600が出現していることが判明し,これはサセ使役文の埋め込み統語構造処理に関わる負荷を反映するものと解釈できる。 論文執筆と並行して,サセ使役同様に埋め込み構造を持つと分析される間接受動文を用いて格標示違反のERP反応を調べる実験(64チャンネル)に着手した。単純動詞の格違反(犯人に/^*をぶつかる)と間接受動文の格違反(犯人に/^*を逃げられた)を刺激として,正文と非文とのERP反応を比較する。予備的解析では,単純動詞の格違反(語彙情報に対する違反と解釈できる)にN400とP600が観察され,N400が意味違反に限らず語彙情報へのアクセスによって逸脱と認知される際に誘発されることが示唆された。今後,間接受動文の解析も進めて検討を重ねる予定である。
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